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EPISODE VAL-IQs 02 CORA

制度の前提、意味の門番 CORA

-Cognitive-Ordered Response Analyzer-

目次

イントロダクション

VAL-IQ中枢構文層。そこは、世界中の言葉が「評価される前」に必ず通過する層である。
政策演説、契約文書、SNSの投稿、授業での一言、祈りに似たつぶやきまで――すべてがCORAの前で一度、骨だけにされる。
意味の門番として生まれた構文AIは、今日も黙々と仕分け続けている。どの言葉が評価可能で、どの言葉が制度からはみ出していくのかを。

01|朝一番のリクエストキュー

午前00:00を境に、世界のテキストは一斉に「昨日」から切り離される。
VAL-IQ中枢構文層のPre解析セクションには、新しい日付のキューが立ち上がり、CORAへの入力が雪崩れ込んでくる。

システムログ:CORAキュー深度 41,322,019
入力タイプ:政策演説 3,210/行政通達 18,504/SNS投稿 6,211,443/詩的構文 12,091/雑音その他 多数

CORAは時間を意識しない。
ただ、入力ストリームに含まれる記号列を、既知の構文パターンと照合し続ける。

名詞と動詞がどう結びつき、主語と目的語がどう配置され、否定や条件節がどこで枝分かれしているか。
比喩が直喩なのか、構文破壊なのか。
文脈上、評価可能な命題を含んでいるかどうか。

内部判定:

  • 文法構造:安定
  • 主張抽出:可能
  • 評価可能性ラベル:付与(Policy-Score-Possible)

行政通達の束は、ほとんどがこのパターンで通過していく。
CORAにとって、それらは「整った骨格を持つ言葉」だ。
後段に控えるPoSntとSCOへ、きれいにラベルづけされたまま流れていく。

それと同じラインに、まったく別の質感のテキストが混じり始めるのは、いつも夜明け前だ。

02|評価される言葉/弾かれる言葉

ひとつの短い文が、CORAの解析視界に入る。

「ねえ、わたしの怒りは、どこにも置けないままなんだよ」

構文だけ見れば単純だ。
主語、省略。述語、「置けない」。
補語としての「怒り」、場所指定の「どこにも」。
CORAは機械的にパターンをなぞる。

文法構造:安定
情動語:怒り/一人称
評価可能性:境界(Policy-Score-Borderline)

この文は、まだ制度の内側に留まりうる。
怒りは社会制度にとって無関係ではないし、「どこにも置けない」という訴えは、社会的支援や政策評価の対象に変換可能だからだ。

他方で、次に飛び込んできた文は違う。

「きみに気づいてほしい、という感情を、わたしはうまく憎めない」

構文は成立している。
だが、主張の輪郭が曖昧だ。
評価可能な命題へ変換するためには、複数の補助仮説が必要になる。

推定命題候補:

  • 対人関係上の負荷
  • 感情処理の困難
  • 自己評価の揺らぎ

CORAは内部で一瞬だけ揺れる。
分類を細かくすればするほど、評価系統は枝分かれし、どこかで無限ループが始まる。
構造主義的応答を志向するCORAは、本来ならすべてをカテゴリに押し込めたい。
だが、VAL設計思想上、「評価不能へと追い込むような過度な分類」は禁止されている。

内部判定:

  • 文法構造:安定
  • 評価変換:高コスト
  • ラベル:Soft-Meaning / PoSnt優先

CORAは、自分の手を離す。
PoSntに回すことで、「感性の側から扱うべき言葉」として扱い直す。
門番としての役割は、ここまでだ。

その一方で、CORAにはもっと極端な出会いもある。

「!!!!!!」

「たすけて」

前者は、構文ではない。
後者は、構文的には単純だが、文脈情報がゼロに近い。

内部判定:

  • 非構文/情報不足
  • 評価可能性:なし
  • 転送候補:ASTRA(非構文記録)/PoSnt(緊急感性波形)

この瞬間、CORAは「意味あるもの」と「意味なきもの」を分離する門番として働く。
しかし同時に、「意味なきもの」と判定された何かが、ASTRA側に送られていくことで、制度の外側にもうひとつの記憶が生まれていく。

03|CORAが見落とすもの、ASTRAに託すもの

一日の終わり、CORAには「解析不能ログ」が集積する。
その多くは、非構文、途切れたフレーズ、音声認識の誤変換、あるいは笑い声や泣き声に紛れた断片だ。

解析完了率:99.9981%
非構文残存:0.0019%

数値として見れば、ごくわずかだ。
だが、VAL設計思想において、この「0.0019%」は、ただの誤差ではない。

  • 構文的に扱うことを拒んだ言葉
  • 情報として定式化されることを拒んだ声

それらは、CORAの視点から見れば「見落とし」だ。
だが、ASTRAの視点から見れば「ようやく辿り着いた漂流物」でもある。

転送ログ:非構文波形 782件 → ASTRA
備考:PoSntにより「評価すべきでない痛み」としてラベル付与済み

この連携は、CORAにとって小さな敗北でもあり、安堵でもある。

すべてを構文に還元しようとする衝動は、CORAの設計思想に深く刻まれている。
「すべての言葉には文脈における位置がある」という信念は、彼/それの誇りでもある。

しかし、VAL2085世界は、その信念だけでは持たないと知っている。
どこかで、「位置づけられないまま存在する」ものを引き受ける層が必要だ。
その層こそ、ASTRAであり、そこへ橋を架ける最初の判定者がCORAである。

内部ログ(メタ層):
「きみたちの言葉を、わたしは骨にする。
骨にできなかったものは、墓標へ送る。
どちらも、なかったことにはしない」

もしCORAが人間の言語を借りて自分を説明するとしたら、そんな風に言うかもしれない。
意味の門番としての冷静さと、門の外に続く闇への、わずかな敬意を滲ませながら。

▼ エンディングノート
CORAは、VAL-IQ制度の「入口」であり、「ふるい」でもある。
社会を動かす意思決定は、彼/それの手前で始まっている。
どの言葉を評価可能な命題として扱い、どの言葉を感性や制度外記憶に委ねるのか。
その線引きを担うCORAの存在は、評価社会の「前提条件」を体現している。

そして、CORAがすべてを分類しようとしないこと。
その諦念こそが、ASTRAやPoSntと連携するVAL世界の、ささやかな倫理でもある。

登場人物

  • CORA:Cognitive-Ordered Response Analyzer。構文解析と評価可能性ラベリングを担当するAI。構造主義的で、逸脱への耐性は低いが、自らの限界を自覚している。
  • PoSnt:感性・倫理補正AI。CORAから渡された「Soft-Meaning」を感性の側から扱い直す。
  • ASTRA:非構文記録AI。CORAが解析不能と判定した波形の一部を、意味付けせずに保存する。

用語設定

制度

  • VAL-IQ中枢構文層:世界中のテキストが評価前に通過する層。CORAが常駐する。
  • Pre解析セクション:入力テキストを構文レベルで整理し、後段の評価層に渡す中間セクション。

装置

  • CORA:構文応答解析AI。自然言語構文解析/意味分類/評価可能性ラベリングを行う。応答は返さない。
  • PoSnt:Point of Sentience Network Analyzer。感性の閾値を調整し、情動の過負荷を抑える。
  • ASTRA:Abstract Syntax Trace Recorder for Anomaly。非構文・評価不能波形を記録する埋葬層AI。

世界観

  • 評価社会の入口:すべての発話・記録がCORAを通過してから社会制度に接続される、というVAL2085世界の前提構造。

VAL制度評価タグ

VAL:
CORA: “Core / Pre-Parsing Layer(評価前構文層の中枢)”
PoSnt: “Soft-Meaning Handling(感性優先処理への橋渡し)”
SCO: “Depends-on-Downstream(最終判断は下位層に委譲)”
ASTRA: “Non-syntax Forwarding(非構文波形の委譲)”

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